人手不足によって起きる問題
介護業界の人手不足は、これからの日本社会に大きな影響を与えていきます。医療の向上などにより、長寿となったことは喜ばしい状況です。ところが、介護を必要とする高齢者へ手を差し伸べることができなくなることもあり得るのです。人手不足は、介護業界に深刻な問題を投げかけています。
離職率が高まり転職者が増える
介護施設における人手不足は、介護職への希望を奪うという問題を引き起こしています。介護施設によっては、24時間体制をとって運営をしているところがあります。日中の勤務に加え、夜勤もあります。これを、交代制で回して介護サービスを提供しているのです。場合によっては、連続勤務で休みが取れなかったり、深夜に呼びだしがかかることも。現在働いている職員の人数でなんとか運営していこうとすることで、職員への負荷は高くなります。結果、離職という選択に至るケースが増加しているのです。
さらに、介護サービスはかなりの重労働です。施設利用者である高齢者には、様々な体型や介護状態の人がいます。その中で、ベッドへの移動や入浴介助などは、特に体力が必要な業務です。そして、高齢者にはケガなどのリスクもあります。責任の大きい業務となります。このような業務環境に対しての報酬の低さも、問題となっています。厚生労働省の調査によると、全産業の平均月収からみても介護業界の月収は約10万円低いという結果がでています。夢と希望に満ちて介護職に就いても、1人に多くの負担をかけてしまうため、介護職に失望して離職してしまう。そして、勤務先を変えるだけではなく、介護職自体がイヤになり、転職してしまうという、負のスパイラルがあるのです。
介護の質の低下
介護職のマイナスイメージが先行している現状は、さらなる問題を巻き起こしています。「重労働できつい」「仕事の割に報酬が低い」など、介護業界への魅力を感じず、介護業界を目指そうとする若者が減っていきます。そうなると、少子高齢化へと突き進んでいる日本にとって、若い労働力が介護業界に存在しなくなるという状況につながります。さらに、若い世代が入ってこないことで介護職員は高齢化し、介護施設での老老介護も現実のものとなるかもしれません。
そして介護施設における人手不足は、職員1人に対する負担の増加という問題も引き起こします。勤務する職員の数が増えなければ、当たり前のように担当する施設利用者の人数が増えます。このような様々な状況において、質の高い、満足できる介護を期待するのはとても無理なことでしょう。必然的に、質の低い介護サービスの提供へとつながっていきます。
充分な介護が受けられなくなる
今後起こる問題として、介護の格差があります。一部の富裕層は、入居者の負担額が大きい高級介護施設へと移り、充分な介護サービスを受けるようになるかもしれません。そのような介護施設では、介護職員においても報酬が高く提示してあり、労働環境が整っています。
ほとんどの高齢者が、質の低い、満足できない介護しか受けられない社会。さらに介護を受けられない「介護難民」は、すでに存在しています。介護業界の人手不足が加速していけば、今後はより「介護難民」が増えていくかもしれないのです。